どんぐり商店

くだらないはなし

すれ違わない

私はふて腐れていた。
仕事ではないけど、とあるモノをつくるプロジェクトで
やることなすことリーダーと合わず、面白くない思いをしていた。

肝だと思うところがズレてる
こだわるポイントがズレてる
なによりも、
リーダーの言い方が高圧的で、私はいちいち嫌な気分にさせられた。

自分の中にふて腐れを溜めておくのはもう限界に近付いていた。
気持ちをクリアにしたい。
ふと思い出したのは、元彼。

彼の仕事のリーダー と
私のモノつくりのリーダー は同一人物。
なんという偶然。

「ねー、ちょっと聞いて。」
元々友達だった私たち。
別れたあとしばらくは距離を置いていたけど
また友達のような関係に戻っていた。
LINEでちょっと愚痴を聞いてもらった。

「あのリーダーはほんと大変だよ。
 誰かと話して、自分の感覚が狂ってるんじゃない
 って確かめたくなる」
と彼は言った。
わかる。すごくわかる。わかりすぎる。
まさに今、それを確かめるために彼とLINEしてる。

「今日は聞いてくれて助かったよ」
「この件、別途詳しく話し合う必要あり!」
「ですね。今ならたくさん提供できるネタありまっせ」
仲間がいる、分かる人がいる
そう思えただけでも私の気持ちはだいぶ軽くなっていた。

 

翌日。
自分の仕事の方も暗礁に乗り上げていた。
必死でドタバタして走り回って、ふと時計をみたら23時をとっくに過ぎていた。
やだ。終電1本前のあの電車には乗ろう。慌てて荷物をまとめて会社を出た。

外の空気が頰に冷たい。
ビルのエントランスにはクリスマスツリー、
街路樹には青いライトが灯され、街には平和で幸せな空気が広がっている。

あー、今日も終わっちゃった

ポケットの中のスマホがふるえた。
「まだ仕事?」
元彼だ

「今帰り。寒いー」
「遅くまでおつかれさん。こっちはいま電車。先輩と飲みにいってたー」
他愛もないLINEの会話。
朝からずっと張りつめてた脳が少し緩むのを感じた。

彼は 家がN駅、会社がK駅 
私は 家がK駅、会社がN駅 
生息地が完全にクロスしてる。

N駅のホームに着いて、LINEを開く。
「いまN駅ついた」
「え。こっちもN駅ついた」

振り返ると隣の隣のホームに電車がいて、ちょうどドアが開くところだった。
「あの電車かな」
「お!見えてる?変な動きしていい?」
「やめてよ」
笑ってしまう。

「今から下に降りるわ」と私が送信するのと
「そっちのホームいくわ」と彼からのメッセージを受信するのはほぼ同時だった。

階段をおりると、ニコニコ笑って大股で歩いてくる彼が見えた。
手なんか振っちゃって。
「おつかれ」
「おつかれ」
「大変そうじゃーん」 


今度は彼と一緒にホームに戻り
電車が出るまでの10分、私は2倍速でしゃべりまくった。
彼のコメントは的を得すぎて、あのリーダーとの仕事で相当の苦労をしてるんだとうかがえた。
分かる分かるわと頷きすぎて、鞭打ちになるかと思った。

そして彼は以前と変わらずよく笑う人だった。
彼と話していると自分が面白いことを言ってるかと錯覚するような。
つられて私も笑っていた。

10分はあっという間で、そうこうしてるうちに発車時間になった。
「ありがとねー」
「こっちこそありがとね」
電車に乗り込む。
彼は階段を下りていった。途中で一度顔を上げて、手を振っていった。

電車が動きはじめた。
私はまたスマホを取り出して、彼にLINEをした。
「さっきはありがとう。吐き出してすっきりしたー」
「こっちは吐き出し足りないっつうの!」
「ごめんごめん。私ばかりしゃべっちゃったね」
「いや、こっちは溜めてる総量が違うからね!笑」
仕事落ち着いたらごはん行こうと約束をして、スマホをカバンにしまった。

電車の窓に自分が映る。
口元が緩んでいた。
きっと明日もいろんなことが起きるだろう。
ふて腐れることも、失敗して落ち込むことも。
でもそれをネタにして、人を笑わせて、自分自身を笑わせて進んでいけたら。
私は焦点を遠くのビルにうつした。
明日もまた、ネタ拾いがんばろう。