どんぐり商店

くだらないはなし

運試し

無い、無い。どこをどう探してもいない。彼がいないととても困る。
決して主役ではないけど、無いと全てがバラバラになってしまう。他の何ものも代わりにはなれない。主張せず謙虚なのに、実はしなやかで強く、まとめ役の彼。

行方不明になったのは、かんぴょう2袋。
お節の準備真っ最中、昆布巻き用のかんぴょうを見失ってしまいました。
置いたはずの棚に無い。無意識の間違い収納ベスト3、食器棚、冷凍庫、レンジの中も見たけど、やっぱり無い。なんでこんな時になくすんだろう! もう! 

ドタバタしてる私を見かねて、父親がかんぴょうを買いにいってくれました。段取りはおかしくなったけど、なんとか昆布巻きは美味しく完成しました。良かった。

こうして無事に迎えたお正月、初詣で私はおみくじに賭けていました。1年いい子にしていた私に、神様はきっとかんぴょうの行方を教えてくれるはず。
初穂料をおさめ、おみくじを引く。すべらかで透けるような紙をほどく。おみくじでこんなにドキドキしたことがあるだろか。吉凶よりもまず見るのは、失せ物の項・・

失せ物   出る。

え? おわり?
北の方角を探せとかさ、子どもが知る事ありとかさ、こっちは何かヒントが欲しいわけよ。出るって、そりゃいつか家のどこかから出るでしょうよ。詳細を教えてよー!
神様の年始の仕事がそっけない。

今年神様は私につれないのかもしれないな。神頼みなぞせずに、自力で頑張りなさいよというメッセージかもしれない。はい、ちょっと寂しいけど、努力します。

数日後、かんぴょうは食料品用のバッグからしれっと出てきました。うーん、たしかにこれは「出る」としか言いようがなかったのかも。
年始早々、神様から究極のシンプルな文章表現について学んだのでした。

悪の味

ほくほくで、優しく甘くて、しっかりお腹にたまって満たされる。焼き芋って幸せの象徴みたいな食べ物だ。芋栗南瓜は女性の好物として挙げられたりもするんだけど、多分に漏れず私も大好き。今風(もう古いかもしれんが)に言うなら芋栗南瓜しか勝たん。正義だと思うわー。

さっき焼いたばかりの芋を食べながら考える。
芋栗南瓜が正義だとすると、その反対、悪って何だろう。カリカリに乾燥して、辛いもの。・・・カラムーチョ? いやいや、カラムーチョもだいぶ美味しいのよ。こちらもまた正義に違いない。

この2、3年で少年漫画を読むようになり、正義や悪について考えることが多くなった。それまで私は少年漫画は全て「正義 vs 純粋悪の戦い」だと思い込んで敬遠してきた。どっこい、読んでみると悪には悪の道理があり、なんなら正義の反対側にもうひとつの正義があったりして面白い。漫画のなかでは異なる理想たちは相容れずぶつかり、たいていの場合は主人公じゃない方が破れていく。主人公じゃない側を対立構造上「悪」と呼ぶのであれば、(変な日本語ですが)悪が正しいほど闘いは心理的に盛り上がり、物語はぐんと面白くなる。悪の味が決め手なのだ。

なんて正義と悪に思いを馳せていたら、あっという間に1つ目の焼き芋を食べ終えてしまった。いいわね、芋は。対立構造がなくても、悪の味がなくても、正義として存在してる。
2つ目の芋に手を伸ばす。少し細めの芋を一口かじった。
うぐっ・・・何か苦いし、土くさい匂いがする。食べかけの断面を見るとちょっと黒みがかっていた。いわゆる灰汁(アク)ってやつでは・・・。これがまさしくアクの味。

完璧な芋はない。完全な正義などない。
正義もアクを含んで存在しているのだ、と芋に諭された気がします。

迷子のスゝメ

ときどき、意図的に迷子になっています。ちょっとした趣味かもしれない。
手っ取り早く迷子になれるのは、読書。公園などいつもと違うところで本を読み、おもむろに顔をあげるとあら不思議。自分のいる場所を完全に見失うことができます。ここどこ!?ってドキドキできる。

知らない場所に一人で行くのも王道の迷子っぽくて、おすすめ。自分の知ってる世界とは連続してないんじゃないかって、急に怖くなる。怖くてゾワっとした刺激がちょっと面白かったりする。

けれど仕事では迷子になんてなりたくない。特にお客さんが関わるところは迷惑かけられないですから。しっかり準備していれば、迷うことなんてきっとあり得ない、と信じている。

先日長野県に出張することになりまして。小さな公民館をいくつか回るルートで、場所は下調べしたし、念のために地図の印刷もしておいた。
最初に行ったのは、細い山道を登った先にある建物でした。換気のために古びた窓をあけると、窓のすぐ下からリンゴの丘が下り、その先には天竜川が豊かに流れる。更に向こうには悠然と構える中央アルプス。雨が細かく降って、雲が白く薄く流れていく。
ほぉーっとため息が出てしまう。仕事中、隙あらば外の景色ばかり見ていた。

最初の場所での仕事はつつがなく終え、さて次の場所へ移動・・と外へ出るとだいぶ雨足が強まっていた。初めての道で雨って運転に気を使うから苦手なんだよなー。ナビをセットする。念のためスマホのナビもつける。印刷してきた地図も助手席に置いた。万全だ。
ですが、万全のはずが次の公民館にたどり着かない。「目的地周辺です」とナビに言われて速度を落とすが、それらしい建物が見当たらない。人に聞こうにもそもそも住民が少ないのか、雨だからか、全く人影なし。一緒に作業予定の業者さんに何度も電話するが、繋がらない。

2往復してそれでも見つからず、路肩に車を停めた。土砂降りの雨がフロントガラスを叩く。知らない土地で、目的地が見つからず、人とも連絡取れず。
世界にひとりぼっちだ、わたしは。
なんて迷子ごっこしてる場合じゃなーーーい!!!
打ち合わせに間に合わなかったらと考えたら、心臓をぎゅうっと締め上げた恐怖が血液に乗って体中を駆け巡った。怖い!

私はお客さんに電話をした。もう体裁かまってる場合じゃない。
「スミマセン。次の場所を見つけられなくて、道に迷っています」 あぁ、恥ずかしい。ナビつきの車で迷うって。
お客さんは「迎えにいきます。その場から動かないで」と言ってくれた。ありがたや。そして、これぞ本格的な”迷子”じゃん!

いやはや、迷子が趣味ってね、甘ちゃんな発言でしたよ。今までの迷子はまさしく”ごっこ”でした。お客さんに迷惑かけるとかピンチを背後に抱えてこそ、本物の迷子。迷子の階段を一段あがってしまった。

ちいさな迷子は日常にもあふれてるのかもしれない。
会話もそう。話し出してから、何言おうとしたんだっけと迷子になる。
文章書きながら迷子になって、結論にたどり着けないこともある。(んん?今まさにこの文章のことか?)

迷子を繰り返し色々を見失っても、その時その場でゾワゾワを楽しんだり人に助けてもらったり、そんなでちょっとずつでも進んでいけたら。

そう言いながら先週の神奈川出張、行く店行く店が定休日でランチ難民になった。ちゃんと調べていったのに!誰か食べログ更新しておいてよ!!
同行の営業さんと二人で歩き回りながら、迷子って一人じゃなくてもなるんだなーと、また迷子の階段をあがってしまったのでした。

かわいいスマホには旅をさせよ

焼け石に水」が見つからない。
すぐ手を打っておけば良かったのか。今さら座布団の下とか捜してみても、それこそ焼け石に水のようだ。

甥っ子と一緒にことわざかるたで遊んでます。
なくしてしまったのは「や」の絵札。しょうがないから予備の白い札に、湯気が立つ石の絵、そして大きく「や」と書いて、絵札を作った。
さ、気を取り直していきましょう。

「やけいしに、みず」
「ハイ!」「ハイ!」

祖母と甥っ子が2人とも札を取る。
待て待て。正解の札は1枚しかないのよ。どっちか間違ってるでしょ。
でも2人が取ったのは2枚とも「や」でした。いつのまにか本家の「焼け石に水」が帰ってきてる。昨日までいなかったのに! 私の手作り「焼け石に水」は肩身せまい感じになってしまった。

腑に落ちないけど、札が増えたならまぁいいか。今回の「や」は引き分けで。
では続いていきましょう。

「ぬれてで、あわ」
・・・・・・・・・。無い。

おかしい。今度は「濡れ手で粟」が失踪してる。

2枚の焼け石に水、0枚の濡れ手で粟。何かを示唆しているのでしょうか。
考えてみると2倍の焼け石に水ってちょっと酷い。何をやっても全部無駄、完全に手遅れって意味? あああ、そんなの嫌だ。どうせなら逆がよかったな。ダブル濡れ手で粟だったらウハウハなのに。両手に粟くっつきまくり。
次回は棚からぼたもちの札が増えてて欲しいわぁ。

そんなかるた占い(?)で盛り上がった翌日のこと。出社すると電話が鳴っていた。かけてきたのは同じ部署の営業担当バブルさん。令和の時代にバブルを感じるこの男は、いつもなら「どんぐりちゃーん、元気ぃぃ?」とギラギラを撒き散らしてくるのに、今日はなんだか声が弱々しい。聞けばスマホを電車に置き忘れてしまったとのこと。デバイスを探す機能を使ったら、地図の線路上を移動していく自分のスマホが見えたそう。そりゃテンションも下がるわね。

「今日出社予定だったけどやめとく。在宅にするわ」
「それで今どこにいるんですか?」
バブルさんの家の最寄りはA駅。会社のあるB駅で降りる時にスマホを置き忘れたならB駅にいるはず。それともスマホを追いかけて次の電車に乗ってるかしら。

「いまA駅」
え? バブルさん完全にスタート地点じゃん。本人そもそも電車に乗ってないの? スマホの単独行動なの? 

けど私はピンときた。日々ことわざかるたで特訓してますから。
「かわいい子には旅をさせよ」
バブルさんは自分の大事にしてるスマホを、敢えて旅に出したのだ。

A駅での様子が目に浮かぶ。
スマホとひとりの男、2人の間を電車のドアが隔てる。ドアの向こうには心細そうにこちらを見るスマホ。本心を言えば男も不安なのだ。未だかつてスマホをひとりにさせたことなんて無い。でも今は、出発するスマホに心強さを渡してやりたい。男は無理やり笑って親指を立てる。グッドラック。良い旅を。
男は動き出した電車を2,3歩追いかけ、そして立ち止まった。去っていく電車が見えなくなるまで、男はホームに立ち尽くしていた。
こうしてスマホは旅に出た。
きっとこのあと、終点で車掌さんにスマホは忘れ物拾得されるんですけどね。どうか短い旅で終わりますように。

スマホと感動の再会をしたっていう話はまだ聞いてない。ことわざかるたの予備の白い札はまだ何枚かあるので、バブルさんに1枚あげようかしらと思っています。

舟をくる

「恋愛」って説明できます?
できなくても大丈夫。そんなときは辞書で調べればいいんです。辞書は普遍的に、誰でも分かるように示してくれる。

れんあい⓪【恋愛】ーする
特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。
「ー結婚⑤・ー関係⑤」

新明解国語辞典 第三版

合体!? 踏み込みすぎてない? これって共通理解ってことでいいの??
そして ”常にはかなえられないで” って表現に、書いた人の恨みのようなものが見えかくれしてる。モテないひがみというか。そんな私情を辞書に載せてよいのかしら。

ちなみにこの「恋愛」の説明は新明解国語辞典の第三版で、1981年に発行されたもの。2020年発行の最新第八版ではこうなっている。

れんあい⓪【恋愛】ーする(自サ)
特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。
「熱烈なーの末に結ばれた二人/ー結婚⑤・ー小説⑤・ー至上主義⑧」

新明解国語辞典 第八版

しょっぱな書き出しで気づくのが、”特定の異性” が ”特定の相手” に変わっていること。性的少数者に配慮した表現になっている。こんな風に辞書の中身は変わっていくのだ。三浦しをんの『舟を編む』で知った辞書編纂の仕事を思い出す。
文字という記号は変わらない。でも文字が示す言葉の心は、時代とともに少しずつ変わっていく。言葉は生きているのだ。そしてきっと辞書も生きている。

残念ながら(?)、”合体” はなくなってしまった。さすがに炎上したか。しかしその表記削除が気に入らなかったのか、当てつけのように説明の量が増えている。
他の全てを犠牲にしても悔い無いと ”思い込むような” っていう所や、一喜一憂する表現は、恋愛している人たちのことを小馬鹿にしているようにも読める。ダメだよ新明解さん、自分がかなえられなかったからってそんな風に書いちゃ。

辞書って、重くてお堅くてつまらないと思っていた。けど、新明解国語辞典は真面目が度を超して、言葉を、読者をオーバーキルしてくる。個性的でお茶目で憎めない奴め。

そんな新明解国語辞典、手元に欲しくてつい買ってしまいました。それも紙版を。
最初に引くものは決めていた。小2の夏、おこづかいで買った国語辞典で調べたのと同じ言葉。

そね・む②【嫉む】(他五)
[他人の幸福や長所を見て]自分にはそれが望み得ないことを不満に思い、相手に悪い事が起こればいいと思う。[名]嫉み③

待って待って。” 相手に悪い事が起こればいい ” って言い過ぎじゃない? 新明解さん、何があったの。悩みあるんだったら聞くよ?

感情荒ぶる辞書に私はすっかりハマってしまった。用もなく辞書を開いてパラパラとめくっては、目についたものを読んだりする。決して読了できない本だけれど。

ページをめくるだけでも楽しいのだ。辞書の紙はとても美しい。透き通るほど薄いのに、張りがあってしなやかで、指に吸い付くように滑らかで。

言葉の大海原を渡っていけるように編まれた辞書。
私はその舟に乗って、櫂を繰(く)るようにページを繰っていく。
そうだ、海賊にでもなってみようか。

濃厚接触の濃厚接触

「あれ? 青山先生、どうしたの?」
仕事を終えて駐車場を歩いていたまる子は、暗がりの中に同僚の家庭科教師の姿を見つけた。確か彼女は電車通勤だったはず。
「こんな寒いところいたら風邪ひくよ。途中まで送っていこっか。」
声をかけたが、青山は左右をキョロキョロして落ち着かない様子でいた。
「あ、えっと、いいえ、大丈夫です。」
そりゃそうか。彼女とは10ちかく歳が離れている。遠慮もするはずだ。
「帰る方向一緒でしょ。乗って乗って。」
「あのー、そうじゃなくて・・・」
どうも煮え切らない。どうしたんだろう、でもこんな真っ暗なところに女性をひとり置き去りにもできないし・・・と思っていると、
「大丈夫なんでっ。お疲れさまでしたッ」
ペコっと頭を下げ、青山は駐車場の奥へと走っていってしまった。

変なの・・・まる子は自分の車のドアを開けた。と、離れたところに室内灯がついた車があるのが見えた。真っ暗ななかでそこだけポッと明るいからつい目がいってしまう。運転席には男性数学教師の鶴崎が、助手席にはさっき挙動不審だった青山が乗り込むのが見えた。

そういうことっ!?
やだ。私ってば完全なるお邪魔虫じゃないの!
まる子はニヤニヤしながら車を出した。2人の乗った車から見えないように少し遠回りして。

翌朝の職員室。2人はまだ来ていないようだ。時間ギリギリに青山が走り込んできた。
「職員会議を始めます」
教頭が前で話し始める。鶴崎の姿はまだない。
鶴崎先生はコロナ濃厚接触の"可能性がある"とのことで、今日は急遽休みになりました」
職員室がざわつく。

どうしよう。まる子は養護教諭、いわゆる保健の先生である。コロナ感染予防には誰よりも口酸っぱく注意をしてきた。
昨日見た光景がよみがえる。密室(車の中)であんなに近い距離(運転席と助手席)に一緒にいた鶴崎と青山。鶴崎から青山へ感染した可能性、あるんじゃないだろうか。

会議は次の話題に移っていたが、全然耳に入ってこなかった。こっそり青山の方を見やると、目をまん丸にしたまま固まっていた。

職員会議を終え、まる子は保健室に戻った。怪我や体調不良の生徒がいない時、ここは一人きり、ある意味個室のようなものだ。
「困ったー!」
腕を組んでぐるぐると歩き回る。万が一鶴崎が陽性だった場合、青山は今日は濃厚接触者として出勤していることになる。養護教諭としてリスクが分かってて放置してよいものか・・・。と、同時にまる子の頭には「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ」という言葉が流れてくる。馬には蹴られたくないな・・・。

悩んだ挙げ句、まる子は青山を保健室に呼び出した。とりあず検査を受けるように言ってみよう。青山との電話を切った直後に電話が鳴った。教頭だった。
鶴崎先生の件ですけどね、週末に会った知人の陰性が確定したそうです。念のため検査した鶴崎先生も陰性でした。明日から仕事に来られますので。」
よかったぁ・・・。そもそも濃厚接触者じゃなかったってことね。青山は無罪放免だ。もう呼び出しちゃったけど。

ノックの音がして「失礼します」とドアが開く。不安げな顔で青山が保健室に入ってきた。
鶴崎先生、濃厚接触者じゃなかったんですって。」
青山はあからさまにほっとした顔になった。畳みかけて聞いてみる。
「で、青山先生は鶴崎先生と付き合ってるの?」
青山が息を吸い、目を見開いて止まってしまった。まずい、地雷だった? 昨日は別れ話だったとか・・・
「聞いてくださいよー! 鶴崎先生ってば、つれないんですぅ。LINEも教えてくれないんですよー。女性から食事に誘ってるのに酷いと思いません??」
青山は一気にしゃべり、口をとがらせている。
なんだ、付き合ってないの? しかもうまくいってない?

コロナも恋路も空振りだ。不要な心配をして焦ったりして、一人相撲じゃないか。
でも今回はコロナじゃなくて良かった。みんなが健康であることが一番だ。

「まる子センセー、どうしたらいいと思いますぅ?」
青山はまだしゃべり続けている。
保健室常連メンバーが増えちゃったなと、まる子は苦笑いした。

そういう次元の話じゃない

いつでも捜しているよ どっかに君の破片を
旅先の店 新聞の隅
こんなとこにあるはずもないのに
山崎まさよし One more time, One more chance


山崎まさよしの元カノはきっと三次元だと思うんだけど、二次元の新聞の中に捜そうとしている。次元越えるってどうかしてるよね。この血迷いぶりが恋というやつ?

恋、ねぇ。わっかんないなぁ。
好きなことならわかる。私は読書が好きだ。本がある場所にふらふらと吸い込まれる。図書館、本屋、古本屋。

その日も食料品の買い出しに来たはずなのに、スーパーの二階にある本屋を歩いていた。
本屋大賞候補のあの本はどんな感じで並んでるかな、先日文庫化されたあの本は爆売れしてるらしいけどほんとかしら。雑誌や漫画には目もくれず、文芸コーナーめがけて早足で向かっていたその時、叫び声が聞こえた。

「煉獄さぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」

え?と思う間もなかった。
ビタっと足がとまって、ブンッと振り返る。
自分の髪の毛が宙を舞うのが目の端で分かるくらい、高速で振り返ってしまった。

小さなディスプレイに炭治郎が映っていました。声はそこから聞こえたらしい。
鬼滅の刃 無限列車編 DVD・ブルーレイの宣伝動画。

自分の動きに、自分自身が一番驚いている。
何で足止めてるのか、何で振り返ってるのか自分でも分からない。一体どういうつもりか自分を問い詰めたい。そこに炭治郎がいると思って振り返ったの?んで、その先には煉獄さんがいるとでも??
反射的に振り返った自分がちょっと気味悪かった。

それからおよそ1年後、同じ本屋で。
また私は前のめりで歩いていた。
芥川賞直木賞発表された直後の売り場、気になるぅ・・あわよくば立ち読みしちゃおう、ちょっとだけ、ちょっとだけねー

「来い、里香ー--------ーっっっ!!!」

ガバッッッッッ
足が勝手に止まる。歌舞伎の連獅子かって勢いで髪をたなびかせ、全速力で振り返った。またもや脊髄反射

呪術廻戦 0 映画の告知動画でした。
乙骨先輩が呪いの里香ちゃんを従えて叫んでた。

ねー--!!!自分がキモい。乙骨の向かい側に、夏油がいると思った?「ならばこちらは大義だ」って言うとでも?
二次元だから!いくら煉獄さんや夏油様がよくても、三次元にいるはずないの。次元は越えられないの。

分からん・・
まさか・・これが、恋ってやつ?(絶対ちがうと思う)

いつでも捜しているんですかね?
どっかに君の姿を。
片田舎のスーパー 二階の本屋で
こんなとこにいるはずもないのに。

私はマスクの下で鼻歌うたいながら、漫画コーナーへと歩き始めた。