どんぐり商店

くだらないはなし

迷子のスゝメ

ときどき、意図的に迷子になっています。ちょっとした趣味かもしれない。
手っ取り早く迷子になれるのは、読書。公園などいつもと違うところで本を読み、おもむろに顔をあげるとあら不思議。自分のいる場所を完全に見失うことができます。ここどこ!?ってドキドキできる。

知らない場所に一人で行くのも王道の迷子っぽくて、おすすめ。自分の知ってる世界とは連続してないんじゃないかって、急に怖くなる。怖くてゾワっとした刺激がちょっと面白かったりする。

けれど仕事では迷子になんてなりたくない。特にお客さんが関わるところは迷惑かけられないですから。しっかり準備していれば、迷うことなんてきっとあり得ない、と信じている。

先日長野県に出張することになりまして。小さな公民館をいくつか回るルートで、場所は下調べしたし、念のために地図の印刷もしておいた。
最初に行ったのは、細い山道を登った先にある建物でした。換気のために古びた窓をあけると、窓のすぐ下からリンゴの丘が下り、その先には天竜川が豊かに流れる。更に向こうには悠然と構える中央アルプス。雨が細かく降って、雲が白く薄く流れていく。
ほぉーっとため息が出てしまう。仕事中、隙あらば外の景色ばかり見ていた。

最初の場所での仕事はつつがなく終え、さて次の場所へ移動・・と外へ出るとだいぶ雨足が強まっていた。初めての道で雨って運転に気を使うから苦手なんだよなー。ナビをセットする。念のためスマホのナビもつける。印刷してきた地図も助手席に置いた。万全だ。
ですが、万全のはずが次の公民館にたどり着かない。「目的地周辺です」とナビに言われて速度を落とすが、それらしい建物が見当たらない。人に聞こうにもそもそも住民が少ないのか、雨だからか、全く人影なし。一緒に作業予定の業者さんに何度も電話するが、繋がらない。

2往復してそれでも見つからず、路肩に車を停めた。土砂降りの雨がフロントガラスを叩く。知らない土地で、目的地が見つからず、人とも連絡取れず。
世界にひとりぼっちだ、わたしは。
なんて迷子ごっこしてる場合じゃなーーーい!!!
打ち合わせに間に合わなかったらと考えたら、心臓をぎゅうっと締め上げた恐怖が血液に乗って体中を駆け巡った。怖い!

私はお客さんに電話をした。もう体裁かまってる場合じゃない。
「スミマセン。次の場所を見つけられなくて、道に迷っています」 あぁ、恥ずかしい。ナビつきの車で迷うって。
お客さんは「迎えにいきます。その場から動かないで」と言ってくれた。ありがたや。そして、これぞ本格的な”迷子”じゃん!

いやはや、迷子が趣味ってね、甘ちゃんな発言でしたよ。今までの迷子はまさしく”ごっこ”でした。お客さんに迷惑かけるとかピンチを背後に抱えてこそ、本物の迷子。迷子の階段を一段あがってしまった。

ちいさな迷子は日常にもあふれてるのかもしれない。
会話もそう。話し出してから、何言おうとしたんだっけと迷子になる。
文章書きながら迷子になって、結論にたどり着けないこともある。(んん?今まさにこの文章のことか?)

迷子を繰り返し色々を見失っても、その時その場でゾワゾワを楽しんだり人に助けてもらったり、そんなでちょっとずつでも進んでいけたら。

そう言いながら先週の神奈川出張、行く店行く店が定休日でランチ難民になった。ちゃんと調べていったのに!誰か食べログ更新しておいてよ!!
同行の営業さんと二人で歩き回りながら、迷子って一人じゃなくてもなるんだなーと、また迷子の階段をあがってしまったのでした。