裏返しの心
裏返しって、分かってしまえば簡単なのかも。
180°反転させる、それが答えになるはず。
好きって気持ちの裏返し。
着てるニットが裏返し。
傘だって裏返る。
仕事を終えて帰ろうとしたらすごい風と雨だった。
いつもなら折りたたみ傘をかばんに入れてるのに、今日に限って入ってない。
しょうがなく部屋にあった置きコンビニ傘を出した。
建物から出たところで風が雨をびゅうと吹きつける。
髪がまき上がり、冷たい雨に目が細まる。
隣の男性は傘を持っていないらしい。
戸惑った様子で空を見上げている。
たしかに濡れて帰るには寒すぎる。
私は傘、持ってるもんね。
得意げな気持ちで傘を開いた。ボタンタイプだった。
ぽち。
バッッサァァァッッッ!!!
一瞬で傘は裏返って、骨がぐにゃぐにゃになった。
隣の男性がびっくりして目を丸くしてる。
恥ずかしくて、とにかく早くその場を立ち去りたくって
ひっくり返った傘のまま小走りで門に向かった。
途中、走りながら傘を直そうとしたけどうまくいかない。
で、気づいたんだけど、ひっくり返っても傘は傘なの。
ちゃんと雨をしのいでいる。
180°裏返っても、機能までは裏返らない。
台風中継でくしゃくしゃの傘を後生大事にさしてる人が時々映るけど、
ちょっと気持ちが分かるかもしれない。
そして小走りのまま自分の車までたどり着き、傘をたたもうとして気づいた。
骨がぐちゃぐちゃに絡んでいて、全く元の形に戻る気配がない。
どうしよう。傘をたたんだ時に止めるリボンで縛っておくか。
ぎゅうっと傘を手ですぼめて、リボンをくるっと一周、
あと少しで届きそう・・・
ぶちっっ
リボン、ちぎれました。
車の前で四苦八苦してるあいだにも雨は降り注ぎ、
寒くて寒くて、もう早く家に帰りたい。
んんんんん!
えい!
私は閉じられなくなったくちゃくちゃの傘を
そのまま後部座席に放り込んだ。
運転しながらバックミラーで後部座席を見てみる。
車のなかで傘が広がっている。なんだこの光景は。
で、困った気持ちの裏返しで、笑えてきてしまった。
そっかそっか。大変なことも、凹むことも、一旦裏返して笑ったらいいのかも。
敢えて裏返しでいるのも、きっと悪くない。
なんか人生の真理を垣間見た気がする。
でも家について、車から傘が全然出てこなくて
また、キーー!!怒!ってなりました。
笑いから怒り、すぐに裏返る心の私です。