どんぐり商店

くだらないはなし

その刃を向ける先

(※この話は「鬼滅の刃」のネタバレを含みます)

 

好きな人に会う前みたいに浮き足立ってソワソワして

ハンカチを握りしめて席についた。

 

ええ。

鬼滅の刃です。

煉獄さんに会わねば、と

リアルな煉獄さんに会わねば、と

4DXが来週で終演と聞いて小走りで映画館に来ました。

 

同じ映画を2度目観るのも初めてだし、4DXも初めて。

初めてを捧げます、煉獄さんに。うふ♡

 

ところで4DXの映画って観たことあります?

座席が揺れたり、風が吹いたり、水が飛び散ったり

映像と音以外にも特殊効果があるんだそう。

これは戦闘シーンが楽しみ!煉獄さんの格好良さが際立つに違いない。

 

私は主人公の炭治郎たちとともに無限列車に乗り込んだ。

時は大正、舞台は夜行の蒸気機関車

炭治郎たち鬼殺隊は、鬼を斬ることが仕事だ。

この列車が鬼との戦いの場となる。

 

で、初体験の4DX。

列車と連動してガタゴトと座席が揺れる。

空から見下ろす画ではふんわりと飛んでるように座席が傾く。

思っていたより大きめの動きで、時々ひじ掛けを掴みたくなるくらい。

 

座席の動きだけじゃない。

煉獄さんが牛鍋弁当を食べるにおい、

炭治郎の故郷に降る雪、

猪頭の少年のよだれ・・

あの手この手で鬼滅世界を客席まで広げてくる。

 

登場人物の設定とも4DXはマッチしてると思う。

剣士たちは、資質にあわせて〇〇の呼吸というものを使う。

その要素に合わせた4DXアクションが、畳みかけるように繰り広げられる。

雷の呼吸で、客席がバチバチっと光り

獣の呼吸で、猪の鼻息に合わせて風が吹きつける。

 

炭治郎は水の呼吸の使い手。

炭治郎が刀を振ると、ミストにしては粒大きめの水が前方から飛んでくる。

鬼を倒すため炭治郎が技を連発する。水しぶきが飛び散り続ける。

自分の顔を触ってみるとけっこう濡れていた。

水の呼吸 拾弐ノ型、保湿ッ!新しい技でましたー。

 

そんなこんなで映画前半は、すっかり4DXを堪能した。

 

 

そして映画後半。

ここからは煉獄さんが主役だ。

座席が揺れたとて、見失わないようにいかねば。うむ!

 

ドォォォンという衝撃とともに、白いスモークが客席に立ちのぼる。

土煙の中に一対の目が光る。上弦の鬼 猗窩座(あかざ)。

煉獄さんと猗窩座の一騎打ちがいよいよ始まる。

 

ここからは怒涛の展開だ。

分かってる、結末は分かってる。けど息がつまる。

猗窩座の強さは異次元すぎて、煉獄さんに加勢したくとも何もできない

そんな炭治郎と、そもそもスクリーンのこっち側で手も足も出せない私。

またうっかり炭治郎に重ねている。

  

鬼は斬られた傷も一瞬で治ってしまう。体力も無尽だ。

かたや煉獄さんは人間。体力は削り取られ、受けた傷は治らない。

戦えば戦うほど、煉獄さんは不利になっていく。

煉獄さんを見ていたいけど、話が進むほど辛くなる。苦しい。

 

猗窩座が煉獄さんに向かって言う

「お前も鬼になれ。

 俺と永遠に戦い続けよう。」

煉獄さんは血を流しながら、肩で息をしながら、それでも即座に答える

「君と俺とは価値基準が違う。

 俺は鬼にはならない。」

老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。

だからこそ愛おしく尊いものだと。

ここのセリフなんてもう完全に暗記しちゃってる。それでも尚かっこいい。

 

「俺は俺の責務を全うする」

信念を、命を燃やす。

煉獄さんの炎の呼吸、奥義 玖ノ型 煉獄。

迎え撃つ猗窩座の破壊殺 滅式。

光と光がぶつかる。

衝撃と爆風に包まれ、2人の姿は見えなくなった。

煙が晴れたとき、そこには鳩尾を貫かれた煉獄さんの姿があった。

結末知ってるくせに、私は息をのんだ。

 

目を見開く煉獄さん。

ああ!と言葉にならない声をあげて、涙がこぼれる炭治郎と私。

手の届かないところで、大事なものが崩れ落ちていく。

炭治郎は我に返り、足を動かした。煉獄さんを助けなくては!

 

そこへ朝日がのぼろうとしていた。山の端が明るんでいる。

鬼は太陽の光を浴びると死ぬ。

朝日に気づいた猗窩座は煉獄さんの手を振り切り、暗い森に逃げ込んだ。

 

炭治郎は刀を拾い上げ、猗窩座を追い森に向かって走った。

自分の弱さや不甲斐なさ、大切な人が目の前で殺される怒り。

刀を振りかぶる。炭治郎の漆黒の刀が朝陽を受けて、瞬間ギラリと光る。

やるせなさを刀に全て乗せて、猗窩座へ向かって投げた。

もちろん私も心の中で一緒に投げた。

ストーリーは知っている。この刀は猗窩座の背中に刺さる。

私も叫びたい。

「逃げるな、卑怯者!!」

 

ドスッッッ

 

刀は、、

刀は、私の背中に突き刺さっていた。

 

痛っっ・・

え?

 

背中に鈍痛。

マッサージチェアみたいな何かが、座席の背もたれから私をどついてきている。

4DX!! 

 

ちょっと待って。

完っっ全に、いま完全に、私は炭治郎寄りだったんですけど!

え、なに、なに。わたし猗窩座だったの?え?

 

大混乱。

 

このあと大事な大事なシーンがあるんです。

煉獄さんが最期に炭治郎に想いを託す。

私、猗窩座なんですけど、鬼なんですけど、同席してもよいのかしら・・

動揺が隠せませんでした。

 

この映画を前回見たとき、私は完全に打ちのめされてしまった。

あんな圧倒的に強い鬼を倒せるようになんて、なれっこない。

こんな高潔な人を失って、立ち直れると思えない。

 

でも今の私は知っているの。

もうコミックス全巻4回も通して読んだから。

炭治郎は煉獄さんの心を継いで、成長して鬼を滅ぼす。

大丈夫だよ、炭治郎。ちゃんと進んでいける。

 

さらに私は知っている。

猗窩座が弱い者を憎み、強さに執着する本当の理由を。

大切な人を守りたい、弱い自分を許せない

立場が違うだけで、炭治郎の気持ちと変わらなかったはず。

その境遇や気持ちを私は責め切れない。

 

そして私は知った。

苛立ちをこめて私が投げた刀は、自分の背中を刺した。

自分以外のせいにしてはいけない。弱さは自分の中にある。

心を燃やせ、前を向け。

 

4DX、すごい体感をした。

背中に刀が刺さる経験ってなかなか無い。

鬼滅の刃2回目、今回もまた違った意味で

現実世界と鬼滅世界がオーバーラップした気がします。