2007年8月、皆既月食。月はいつもの光を失って暗くオレンジ色に 雲と雲のあいだにぽっかりと浮かんでいた。私は庭に腰をおろして、 だんだんと光を取り戻していく月を見ながら 彼と電話をしていた。 彼も、ベランダで月を見ていると言っていた。ちょう…
私たちはその男のことを、「億」と呼んでいた。 億は私の上司だった。 小柄で痩せていて、笑う時に口の片方をつり上げた。 よく分からない柄のネクタイはベルトより長く、 ぼってりとしたオーバーサイズの靴は歩くとドスドスと音がした。 「俺、億単位の金を…
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