どんぐり商店

くだらないはなし

レンダ と 長尾氏

狂気とは、誰しもが心の奥深くに隠し、
持っているものなのだろうか。
それはふとした瞬間に顔をのぞかせ、
人間の本質を見せつけるのかもしれない。

朝9時間際のエレベーター
ほとんどの人が始業時刻ギリギリなのだろう。
自分が降りるより前の低層階でドアが開くと、
ちょっとした苛立ちの空気が漂う。
心の中でついたため息は、体の外には出さなくても、
エレベーターに充満していくようだ。

「3階です。ドアが開きます」
自動音声が流れる。

と同時にドア付近から
ダダダダダダダダダ!!!!!
連打音が聞こえた。

え?
エレベーターの故障!?

音がする方を見ると、
女性が「閉」ボタンを連打していた。
ドアが開く前から。

女性は、降りる人のことも「閉」ボタンすら
全く見ず、スマホを片手でいじりながら
もう片方の手で「閉」ボタンを叩いていた。

3階で1人降り、ドアが閉まると
女性はため息をついて連打をやめた。
全身から不機嫌が漂っている。

こっ…こわい…!
エレベーターの中は、小さな苛立ちから一転、
恐怖が広がった。

エレベーターの操作盤を見る。
この人が何階で降りるのか分からないが
まだいくつかの階のボタンが点灯していた。

「5階です。ドアが開き…」
ダダダダダダダ!!!
また1人飛び降りていった。

自分の階に着くまでの時間が
とてつもなく長く感じた。

隠されない怒り。
人の心の、見てはいけないところを
直接見せつけられたような、
朝の上りエレベーター


そして、数日後の夕方

下りのエレベーターに乗りこむとき
感じの良い女性が(連打さんとは別人)
ボタンを押してくれていた。

そうそう、こうでなくちゃね。
人が乗り降りする時は「開」ボタンを押して
待ってあげる、これがマナーってやつ。

と、ふと押されてるボタンを見ると
「閉」
でした。

「閉」長押し。

こわい!!!

私が降りる階で、その人は「閉」を長押ししながら
「どうぞ」とにこやかに促した。


隠された狂気。
そのにこやかさの下で、この人は舌打ちしているのだろうか。