どんぐり商店

くだらないはなし

with

日曜の午後、ご褒美時間は

海が見える小さなカフェで。

 

ほんのり甘いシナモンスコーンと

すっきりとした香りのアイスコーヒー。

読みかけの本を開いて。

 

ね?素敵でしょ?

もちろん 写真を撮って

インスタも抜かりなくアップした。

 

素敵時間を過ごすアタクシ!

・・になりきりたいのですが、

隣のテーブルの声が大きくて

オシャレ空間を台無しにしてくる。

 

with コロナのこのご時世

 「会話は控えめに願います」と

注意書きが貼ってある。

それでもお構いなしで聞こえてくる会話・・。

 

 

話しているのは大学生くらいの男女。

休みの日にカフェへ二人で来ているのだから

カップルなのかな。

 

店内を見渡すふりをしてちらっと見ると、

テーブルの上にノートを広げている。

2人で勉強かしら?

 

窓の外に視線を戻して、

アイスコーヒーを一口飲んだ。

彼らもまた、

おしゃれ空間で勉強してる自分たち

になりきりたいのかな・・

なんて思っていると、

男「あ、もしもし?ヤマダですけどー、

  今電話いいですか?」

と男性が電話をかけはじめた。

え?

デート中に席を外さず電話するか?普通?

 

すると、

女「もしもし、大丈夫だよ。何だった?」

と女性が電話をとった。

ええ??どういうこと?

隣同士に座ってるのに、

わざわざ電話で会話してるの?

 

二人はひとしきり話し終えると

「じゃあまた」と言い合って電話を切った。

 

男「今の言い方で書き直していいですか?」

女「そうだねー、こっちの方が良さそう」

とノートに書いている。

あぁ、なるほど。

きっと演劇か何かの台本づくりだ。

さっきのは電話風のセリフだったのね。

 

その証拠に、

男「もう一回最初からいいですか?」

と、再び「あ、もしもし?ヤマダですけどー」

先程と同じ会話が始まった。

 

そうかそうか、納得。

どんな演劇なんだろう?

もう少し盗み聞きしちゃおう。

 

男「アヤカ先輩、今度の週末空いてませんか?」

女「ちょっと厳しいなー。バイトあるんだよね」

男「バイトの前、少しだけでも会えないですか?」

女「うーん、バイトの時間が変わるかもしれなくてー」

男「・・・」

女「・・・」

男「あーっ!ダメだ。言葉が出てこないです・・」

女「そういうの臨機応変にいかないとー!」

男「すみません」

 

あれ?これは演劇ではないのかもしれない。

ヤマダ君はアヤカ先輩をデートに誘いたくて

でもどうやって電話したらいいのか分からなくて、

女性に練習してもらってるって感じ?

なんかなんだか、青春ですねぇ。

ヤマダ君、がんばれ!

 

女「相手のことを思い浮かべて、

  最近の相手の行動を書き出して。

  今すぐ。3分で。」

なかなかスパルタな恋愛塾のようです。

女「そこから話の糸口をつくるんだから!」

と。ほほー、参考にさせてもらおうかな。

 

練習再開。

それにしても・・

電話でのお誘いばっかり練習してるけど、

アヤカ先輩はどんだけつれないんだろうか。

そんなに断ってくるって、

それはもう脈無しと言うんじゃないだろうか・・

 

男「アヤカ先輩こないだ扇風機買いましたよね?

  あれ、いくらでした?」

女「8,000円くらいかな」

おいおい!ヤマダ君!

扇風機の値段から、どうやって

デートのお誘いにもっていくつもりなのよ。

遠回りにもほどがある!

と思わず乱入しそうになったのですが

男「同じものが半額の4,000円で

  手に入るって言ったら、どう思います?」

あれ?

なんか話の風向きがおかしい。

男「実は××っていうのがあってー、

  僕も入会していています。

  先輩と同じ物を半額で手に入れたんです。

  すごくないですか?

  さっき会員1名だけ空きが出て、

  すぐ登録が出来る状況なんですよ。

  空きが出るって滅多にないことなんで・・

  アヤカ先輩には特別に教えようと思って

  今電話してるんです。

  すぐ会員埋まっちゃうので

  どうしても今週末には回答ほしくて・・」

ヤマダーー!!

それ、きっとダメなやつーーー!!!

 

なんか怪しげな勧誘電話の練習でした。

 

あらら・・と思っていると

私の背後のテーブルに座っていた

別のカップルの片方が

「進捗どうー?」

と勧誘電話カップルに声をかけた。

気づいてなかったけど、まさか・・グルですか?

 

5テーブルしかないカフェ

1つはわたし。

残りのうち2つが怪しげな勧誘練習・・

 

「アナタ、今までの私たちの会話聞いていたわよね?

 タダで帰れると思ってないわよね」

なんて展開になったらどうしよー!

 

急に怖くなって

残りのアイスコーヒーを一気飲みして

さり気なく、奴らを刺激しないように、

そっと立ち上がった。

 

男「自分、営業に向いてないんじゃないかって心配です」

女「出来ない理由を探すんじゃないの。

  やれる方法を、見つけるの。」

ブルゾンちえみ!?!?

驚いて振り返ったら、ちえみと目が合ってしまった。

 

with コロナ、with B な日曜午後でした。