どんぐり商店

くだらないはなし

ペールブルー

甘すぎず、辛すぎず
シュワッと溶けて、鼻に抜ける涼しげな匂いがして。

そんな色を探してた。

夏はペディキュアが楽しい。
手のネイルにはできないような色も、足だったら平気。
男気あるスポーツサンダルにも、可憐なミュールにも
ネイルカラーが色気を足してくれる。

今年の夏最初のペディキュアに選んだ色は、ペールブルー。
シャーベットみたいな、白みがかかった水色。

ネイルを塗る作業は嫌いじゃない。
何も考えない
先を急がない
頭の中がしんと静かになる。

ペールブルーの瓶を開けた。
刷毛の片側を瓶の口でしごいて、扇型に整える。
呼吸をとめ、刷毛を持った手を固定して、爪の上に色を置いていく。
1回目はこそっと、2回目はぷっくりと。色を重ねていく。

ふうと息を吐いて、顔を遠ざけ、自分の足を見た。
トンボ玉みたいにつやつやで丸くなった。
グレーっぽいちょっとくすんだ水色。
かわいいローズピンクじゃない、元気なターコイズブルーじゃない。
薄くもやが広がる夏の空のような。
きっと私のお年頃のような色。

「素敵な靴は、あなたを素敵な場所へ連れていってくれる」
とは、フランスのことわざだそう。
私のペールブルーよ。この夏、私を素敵な場所へ連れていって頂戴。
うっすら白くかすむ夏の空のした、
波打ち際を裸足で歩きたい。
岩に座って川に足をひたすのもいい。
ペールブルー、頼んだよ。


その日の夜のお風呂
ブルーグレーのタイル風の床に足を置いた。
ほら、こんなときも自分の足先が誇らしい、・・?

ん???
目がかすんだかと思った。

浴室の床

私の足の爪

色が完全一致しました。

色相、彩度、明度
どこの狂いもない。完全に爪が床に擬態してる。


確かに言いましたよ、私を連れていって、と。
でもよく聞いて?ペールブルー?
風呂場はね、アンタに連れてきてもらわなくても、毎日来てるの。
私、"素敵な場所"って言ったよね?
このご時世、ハワイなんて望まない。
でもだからって風呂場はどうかと思うのよ。
ペールブルーの仕事が早すぎる。そして雑。

シャワーの栓をひねってお湯が出るのを待つ。
足元に冷たい水がかかって、ペールブルーがはじいている。

そう。まだ、夏はこれから。
エンドロールの途中で悲しくなったりしないように
今から素敵な場所へ歩いていこう。