着地
平均台だ。
平均台が宙に浮かんでいる。
なんで浮いているかなんて知らない、
とにかく私はこれを渡りきらないといけない。
そろりそろりと足を前に出した。
ぎゅっ と腹筋を締める。
自分に軸が通ってることを意識して
バランスをとる。
すっ と頭を持ち上げる。
目線は足元じゃなく、
平均台の終点を見る。
落ちたらどうなるかなんて考えたらダメだ。
心をすっかり無にして、ただ、ただ、ただ、
一歩ずつ、少しずつ、進むしかないのだ。
「わぁっ」
平均台がふいに揺れた。
最後3歩は駆け抜けた。
右足で蹴って、飛んだ。
浮かんでいた平均台の下は、
暗やみ。
私は吸い込まれるように落ちた。
頭のてっぺんまで恐怖に包まれた。
わたし、落ちて死ぬの?
瞬間、身体中に重力が戻り
足の裏に地面を感じた。
両腕を広げ、バランスをとる。
着地。
着地?
ガタタン、ゴトトン
「次は~、大府~、大府~」
次は?おおぶ?
電車の中でした。
私ったら、居眠りをしてしまっていたようです。
浮いてる平均台は、夢でした。
でも、着地は現実でした。
そうね、今、腕を広げて着地姿勢してるね。電車の中で。
私は目を閉じたまま
すうっと手を膝の上に乗せて
そして寝たふりを続けました。
私の10.00の平均台演技を、
誰も見ていませんようにと願いながら。