どんぐり商店

くだらないはなし

恋はレモン味

「好きな異性のタイプは?」
この質問にいつも困ってしまう。
自分でもよく分からないのだ。

もしかして、今まで好きになった人の共通点があるとすれば
それが私の好きなタイプなのかもしれない。

 

ずっとずっと昔のこと。
冬のある日、その頃付き合っていた人の家でのんびりしていた。
みかん食べたいね、とどちらが言ったか忘れたが
車庫に取りにいくことになった。

段ボールに入ったみかんを数個取ったところで
傷んでるものをみつけた。

私「傷んでるのはどこに捨てたらいい?」
男 「そのへんに投げといて」
私「?」

意味が分からない。
腐ったみかん=生ゴミ=ゴミ箱に捨てるもの、でしょ。
そのへんてドコ?投げるってどういうこと?

意味が分からずキョトンとしていると、
男は私の手からみかんをひったくり、大きく振りかぶり、そして、
・・投げたっ!!

雲が低い冬の灰色の空
くさったみかんのオレンジ色が、孤を描いた。

みかんは向かいの畑へ着地し、小さく1回バウンドして
畝と畝のあいだに見えなくなった。

呆然とする私の横で、
みかん投げの男は満足げにうなずき(多分良い記録だったのだろう)
みかんをもぐもぐ食べていた。

 

そしてそれから数年後。初夏。
私は、みかん投げとは違う男性と一緒にいた。

「うちで作った甘夏をあげる」と彼に言われ
籠の中から甘夏みかんを選んだ。
ちょっとゴツゴツした甘夏からは爽やかな匂いがした。

すると籠の下の方から傷んだ甘夏が出てきた。
私「傷んでるのはどこに捨てたらいい?」
男 「そのへんに投げといて」

デジャヴかと思った。
びっくりして固まっていると
彼は「貸して」と私の手から甘夏を取った。
そして大きく振りかぶり、やはり、遠投。

薄く淡い初夏の水色の空
くさった甘夏の黄色が、孤を描いた。

ドスっと鈍い音がして、甘夏は畑に着地し
ゴロゴロと転がるのが見えた。

 

共通点、見つけた。
いまなら胸を張って言えるかもしれない。
「私のタイプは、柑橘類を投げる人 です。」

私の気を引こうと思う男性は、
私の目の前で柑橘類を投げるといいかもしれない。