どんぐり商店

くだらないはなし

金の斧、銀の斧、野菜の肉巻き

豚肉のコマ切れ、100g 88円の特売。の、更に1割引。
くしゃっと無造作にトレーに入った肉を
広げて重ねて、平たい形に整える。
硬めにゆでた人参、親戚からもらったオクラ、
細く切ったしょうがを端に置いて、くるくると丸めていく。
野菜の肉巻き。
軽く焼き目がつくくらいに火を通して、醤油と砂糖で甘辛く味付けよう。
タレは煮詰めてちょっと焦げ始めるくらいが美味しい。
家族みんなの好物だ。
たくさん食べたくて、たくさん食べさせたくて、
お値打ちな(しかも特売、しかも値引きの)豚コマでつくっている。

豚コマは、いろんな部位いろんな大きさの端切れの寄せ集め。
同じスーパーでも日によって中身が全然違う。
今日の豚コマは当たりみたい。大きめの肉がたくさん入ってる。

トレーから"1枚"とおぼしきかたまりを取り出す。
と、同時にころんと別のかたまりが転がり、
そのまま、流しへ落ちていった。
流しには水の張った洗いおけがあり、豚コマはその中へぽちゃんとダイブした。

あ、勿体ない。
のぞき込むと、洗いおけからなんと女神様があらわれた、気がしました。

女神様は私の目を見て、静かに問うた。

「お前の落とした肉は、A5ランク国産黒毛和牛か?」
ちょっと想像する。
野菜の"牛肉"巻き。
いやー、肉巻きっていったら豚肉じゃないですか?
豚の脂の甘みと野菜がベストマッチだと思う。
牛肉ねぇ。悪くはないけど、ちょっと臭みが気になりそう。
「いいえ。私が落としたのは、A5ランク国産黒毛和牛ではありません」

「では、お前の落とした肉は、平飼い名古屋コーチンか?」
ちょっと想像する。
野菜の"鶏肉"巻き。
あ、これはアリですね。いいかも。
でも思い出したわ。鶏チャーシュー作るとき面倒だったのよね。
タコ糸で縛って成形しないといけない。
「いいえ。私が落としたのは、平飼い名古屋コーチンではありません」

「私が落としたのは、100g 88円の更に1割引、一応国産の豚コマです」
女神様は微笑んで、そして洗いおけの中に消えていった。

私は待った。
国産黒毛和牛と名古屋コーチンを両手に持って
女神様が再びあらわれることを。
「正直者のあなたには、両方ともあげましょう」と言われることを。

でもいくら待っても女神様はあらわれなかった。
ただ、洗いおけの中に、水を含んで白くふやけた豚肉が沈んでいるだけだった。

ちぇ。
正直にしてたって、別に得なんてない。
せいぜい騙されないように用心深く生きていくしかないんだ。
私はふやけた豚肉を拾い、そして生ゴミ入れに放り込んだ。

でも。
豚コマでつくった野菜の肉巻きは、正直言ってとても美味しかったです。
白いごはんが進むわー。
お腹いっぱいで、しあわせ、しあわせ。
あぁ、私ってば、とてつもない正直者だ。